かぜと免疫
チェックポイント
こどもは5才くらいまでに毎週のように感染を繰り返し、ウイルスや細菌に負けない抵抗力(免疫)を獲得していきます。したがって何回も熱をだしたりかぜをひいたりすることは乳幼児ではごく普通なので、過剰に悩む必要はありません。小学生になればかぜにかかる頻度は驚くほど減少します。
概略
いわゆる”かぜ”は下記のごとく様々に呼ばれています。
“風邪” “感冒” “鼻かぜ” “夏かぜ” “流行性感冒” 等です。かぜという診断は医学的にもあいまいな意味を含んでいる疾患単位で現時点では異なった病因による上気道症状(発熱、咽頭痛、鼻水、咳…)をさしています。病因が単一でないこと、症状の範囲が漠然としていることもあって”かぜ症候群”とも呼ばれていますが、その内容は鼻炎、上気道炎、咽頭炎などです。原因があきらかであれば溶連菌感染症、RS感染症、マイコプラズマ感染症等原因ウイルスもしくは原因菌の名前を付して診断される方向にあります。
【参考】かぜの考え方(かぜ診療マニュアル 日本医事新報社、2019より引用)
病因 かぜ症候群の原因
ウイルス感染によるものが大部分ですが、細菌、マイコプラズマ、クラミジア等も原因となります。
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1.ウイルス
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1)ライノウイルス:113型以上(30~50%)
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2)コロナウイルス:3型以上(10~15%)
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3)エンテロウイルス:60型以上
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4)パラインフルエンザウイルス:4型
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5)RSウイルス、hMPV(ヒトメタニューモウイルス)
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6)インフルエンザウイルス(A,B,新型)
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7)レオウイルス
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8)ロタウイルス:6型
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9)アデノウイルス:51型
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10)ヘルペスウイルス
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2.マイコプラズマ
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3.クラミジア
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4.リケッチア
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5.細菌
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1)溶連菌A群、B群
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2)肺炎球菌
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3)黄色ブドウ球菌
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4)インフルエンザ菌
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5)クレブシェラ
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6)ナイセリア
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6.真菌
※( )内の数字はウイルスによる感冒の頻度、原因不明のウイルスも20~30%ある(内科学,西村書店)
臨床病型とおもな病因ウイルス
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1.普通のかぜ(発熱、のどいた、咳、鼻水)ライノ・コロナ・アデノ・コクサッキー・エコー・RS・ヒトメタニューモ・インフルエンザ・パラインフルエンザウイルスなど
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2.インフルエンザおよびインフルエンザ様疾患(高熱、頭痛、咽頭痛、筋肉痛、倦怠感)インフルエンザ・パラインフルエンザ・アデノ・コクサッキー・エコーウイルスなど
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3.咽頭炎(のどいた、発熱)アデノ・インフルエンザ・コクサッキー・EB・単純ヘルペスウイルスなど
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4.クループ(発熱、嗄れ声、犬吠様咳、吸気性呼吸困難)パラインフルエンザ・インフルエンザ・エコー・RSウイルスなど
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5.気管支炎および細気管支炎(発熱、喘鳴、呼吸困難、胸痛)RS・ヒトメタニューモ・パラインフルエンザ・インフルエンザ・麻疹・アデノウイルスなど
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6.肺炎(発熱、咳、痰、胸痛、呼吸困難)インフルエンザ・パラインフルエンザ・RS・麻疹・アデノ・サイトメガロ、水痘ウイルス、EBウイルス・ヒトメタニューモウイルス など
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*パラインフルエンザ–成人は軽い上気道炎、嗄声が特徴。小児では2~5日の熱、3型感染は低年齢では細気管支炎・肺炎のことも、1・2型ではクル-プが起きやすい。
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*コロナウイルス—軽症の上気道症状(発熱・鼻水・咽頭痛等)、時に肺炎・細気管支炎の報告。
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*ヒトメタニュ-モウイルス—比較的新しいウイルス、肺炎・気管支炎等の原因になることも。2001年にこどもの呼吸器感染症の患者から初めて分離、小児呼吸器感染症の5~10%に検出されるとの報告あり。症状はRSウイルス感染症に似ていて、3~5月に多くRSウイルス検査が陰性の時に考慮。
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*レオウイルス—胃腸疾患や軽い上気道炎症状。
かぜ症候群抗菌薬の使用の目安
① 高熱の持続(3日間以上) ② 膿性の喀痰、鼻汁 ③ 扁桃腫大と膿栓、白苔付着 ④ 中耳炎、副鼻腔炎の合併
⑤ 強い炎症反応(白血球増多、CRP陽性) ⑥ ハイリスクの患者
かぜにかかる頻度
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*幼小児ではかぜに年5~8回罹患、多い乳幼児では15回前後罹ります。
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*成人では1~2回程度の罹患になります。
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*乳幼児では毎週のように罹ることも不思議ではありません。
かぜの原因ウイルス、細菌はざっと300以上あります。
したがってそれだけの回数かぜにかかることになります。
ある時期(1~2・3歳)、毎週かかっても不思議ではありません。
感染と免疫
赤ちゃんは生後10ヶ月前後まで母親から臍帯を経由して供給された免疫力(受動免疫)に守られて、ウイルスや細菌に感染しないように仕組まれています(誕生するまでは胎内という無菌室に入っている)。したがってこの時期まではよほどでないと発熱しません。10ヶ月前後をすぎると母親からもらった免疫抗体が枯渇し、途端に感染しやすい状態になります。感染は免疫抗体があれば防ぐことができるのですが、生後10ヶ月を過ぎた頃からは自分で免疫抗体をつくらなければなりません。
ヒトの体はウイルスや細菌に感染しないと抗体ができません。10ヶ月前後から5才くらいまでに感染する病原体はおよそ300くらいあります。これらに順次感染してひとつひとつ免疫抗体を獲得していくことになります。ある時は発熱、ある時は咳、ある時は下痢等次々にかかっていきます。ほぼ毎週なにかしらに感染していることになります。そうしてほぼ300の感染症に罹患し成人と同じ程度の免疫が成立すると、それからはおとなと同様年に2~3回程度の発熱ですむことになります。元気に学校生活を送る準備が整ったことになるわけです。
こどもに「熱をだしてもらいたくない」これは家族にとってあたりまえの願いです。しかし、免疫の仕組みを考えればむしろ感染症にかかって早く免疫を獲得した方が社会生活する上で得策です。麻疹や結核などかかると大変ですから、その場合は予防接種によって人為的に免疫をつくる方法がとられます。無菌室に入って過ごせば発熱したり咳をしたりの”かぜ”には罹りませんが、一生無菌室で過ごすことはできません(受精卵が胎児へと成長する母親の胎内は無菌環境下)。無菌室を出た瞬間からたくさんの感染症にみまわれ、学校や会社等に通えない等の社会生活に支障を来す状況になってしまいます。日常のウイルスや細菌などによる感染をむやみに怖がらず、医師等の助言のもと、病気をうまく克服してゆくことが大切と考えています。
いたずらに守っては強い免疫力をもった”からだ”を獲得できません。
抗生物質とウイルス
抗生物質は細菌の細胞壁、リボゾーム、DNAなどに作用して細菌の分裂・増殖を阻止すべく開発されています。こどもの感染症の多くをしめるウイルスは、下図(右)のごとく細胞壁をもたず、またDNA・RNAはヒトの細胞の中に入ってヒトの細胞の仕組みを利用して増殖するため、抗生物質はウイルスに作用することが不可能になりまったく無効です。ウイルス感染に抗生物質が効いた印象を持つのは、ウイルス感染が治癒するころに抗生物質が処方されたものか、ウイルス感染に細菌が二次感染して、その細菌に効果があったかになります。いずれにせよウイルス自体の感染症に抗生物質を使う必要性はありません。 ( 下図:細菌の構造とヘルベスウイルスの構造 )
ただし、ウイルス自体のDNAの複製あるいはウイルス蛋白の合成阻害剤(アシクロビルet.)、ウイルス粒子のヒト細胞への吸着、侵入等を阻害する薬剤(アマンタジンet.)やウイルス粒子の形成、成熟、ヒト細胞からの放出を阻害する薬剤(タミフルet.)は次つぎに開発されて水痘・インフルエンザ治療薬等に使用されています。
注:細菌の細胞壁はペプチドグリカンというアミノ糖で構成されています。抗生物質はこの合成を阻害(ペプチドとグリカンの結合阻止)します。細菌は細胞壁を失うと生存することができません。ペプチドグリカンは細菌特有のものですので、これを攻撃する抗生物質は細菌のみに選択的に働き、ヒト細胞への影響・毒性は少なくて済みます。
抗生物質の作用の仕方はいくつか(蛋白合成阻害・DNA複製阻害等)ありますが細胞壁に働くのは主にβ-ラクタム系(ペニシリン、セフェム等)抗生物質で、開発しやすく比較的副作用が少ないことから頻用されています。
注:ウイルスの表面はエンベロ-プとよばれるリポムコ蛋白で構成されている膜(膜自体をもたずカプシドがむき出しのウイルスもあり)に覆われています。細菌の細胞壁とはまったくことなる構造(細菌の壁がレンガとすればウイルスの膜はサランラップ様)でできてるため、抗生物質はウイルスに対して作用点がなく効果を発揮することができません。
注:抗菌薬のグラム陽性菌とグラム陰性菌に対する作用の違い。
* β-ラクタマーゼはペニシリン・セファロスポリンなどのβ-ラクタム環をもつ抗生物質を不活化します。
PBP(ペニシリン結合蛋白)は細胞壁を合成する最終過程に作用する酵素でPBPに抗生物質が結合すると細胞壁は脆弱化し溶菌して死滅してしまいます。
グラム陰性菌はLPS(リポ多糖類)の外層が存在するため、またβ-ラクタマーゼがペプチドグリカンの内側にあることにより抗生物質が陽性菌に比較して働きにくくなります。
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*こどもの発熱の90%はウイルス感染です。5才頃まで症状の軽い、重いはありますが毎週のように感染します。そのことによって大方免疫を獲得し、かぜをひくことが年に1~2回程度になってたくましくなります。
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*エンテロウイルスの中には、コクサッキーウイルス(A,B) , エコーウイルスなどが含まれます。手足口病やヘルプアンギーナなど”夏かぜ”に関係しています。このグループは心筋炎、無菌性髄膜炎等合併症を起こすことがあります。
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*アデノウイルスも咽頭結膜熱(プール熱)などの原因ウイルスですが、年間を通じて高熱をともなって扁桃炎、あるいは急性下痢症を起こすことがあり注意が必要です。
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*こどもの感染の多くはこのようにウイルス感染ですが、なかには白血球のはたらき(貪食殺菌、遊走能等)が低下している場合がありこのような時は細菌感染をうけやすく、繰り返し細菌感染による発熱がみられることがあります(反復する中耳炎、扁桃炎等)。この場合抗生物質が有効です。1年間に3回以上肺炎を繰り返すような場合は、特別な免疫異常が原因のことがあります。
参考
細菌・マイコプラズマ・リケッチア・クラミジア・ウイルスの特徴
免疫に参加する細胞(ハリソン内科学 第4叛:2013)
ヘルパーT細胞(Th)の分化と関連免疫疾患(内科学:西村書店,2012)
ウイルスの構造と主なウイルスと疾患